毎年、無数のヌーたちが草原を埋め尽くす。マサイマラの自然サイクルの一つです。
6月に入ると、セレンゲティにいる130万頭ものヌーたちが、今年生まれた子供を引き連れて集まってきます。彼らの必要とする草がなくなる前に、ゆっくり、やがて壮大な一つの群れとなります。
7月、北部のマサイマラでの雨のにおいが入場の合図です。
これがケニアで最も有名な「ヌーの大移動」です。その圧倒的な数と野生動物の多様さで、世界の称賛を集めています。
ある旅行者がマサイマラのことを、こう述べています。
「あなたの全身を使った感性は、マサイマラの風景と、においや音、そこに住む生命によって絶えず刺激されるだろう。夜明けにキャンプを出発し、猛獣を探す興奮など、すべてにおいて2度と繰り返すことのできない経験だ」
このヌーの大移動の時期は、マサイマラ訪問のベストシーズンとなります。
接近してくるヌーの群れは、蹄によるとどろきと、低いいななき声によって、独特のサウンドを響かせます。ヌーたちは押し合うように長い行列をつくり、地平線の端から端まで続きます。この果てしない灰褐色の帯に混ざる縞柄は、合流したシマウマたちです。
ケニアを訪問する旅行者は、この大移動の過程を直接観察する機会を得るのです。
アフリカで最も肉食動物が集中していると称されるマサイマラ。ここに住む大型肉食動物にとって、ヌーの大移動は獲物を容易にとらえることのできる最大のチャンスです。
ライオンのハンティングも頻繁に目撃されるようになります。特に夜間は、各々のライオンが複数のヌーを一度に捕らえる事さえあります。
ハイエナの群れは、自在に大移動群の中へ入り込み、子供や弱ったものを追いつめます。
ヌーたちの行進を妨げるのは肉食動物だけではありません。ケニアでも降水量の高いマウ山地より流れ出す水はマラ川へ集中し、激流へと姿を変えます。
毎年、ヌーたちは川岸に集まり、大移動で最も危険な挑戦に臨む覚悟を決めなければなりません。ヌーの集団は押し合いながら、先頭はやがて水辺へたどり着きます。ときにはその圧力で、崖から落とされてしまうこともあります。
川渡りはまさに決死です。多くのヌーたちが溺れたり、激流に流されたりします。重量級のナイルワニは、毎年この瞬間を待ち望んでいるのです。
9月に入ると目的地となるマサイマラで、ヌーたちは散り散りになり草を求めて広がります。大移動群がやってきて草を食べ、糞をすることによって、マサイマラの草原は再生されていきます。そして10月、新しい草の生えたセレンゲティを目指し、同じ道のりを経て南下していきます。
ヌーの大移動は地球上に存在する「生と死の叙事詩」です。
セレンゲティで生まれる子供のうち、3頭に1頭しかこの大移動を終えて戻ってくることはできないのです。
ヌーの集団に定められた、生存するために繰り返すこの大移動は、自然史の一つの驚異でしょう。











